Project

日本の宇宙研究に貢献する

「はやぶさ2」の軌道決定システムの開発

2010年6月、小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還。小惑星から地表サンプルを持ち帰る「サンプル・リターン」に世界で初めて成功した。「はやぶさ」よりもさらに高度な、地中のサンプルを持ち帰るミッションに挑戦する「はやぶさ2」にも、富士通の技術が貢献している。太陽系、地球、生命誕生の謎を解き明かす壮大な研究、宇宙への挑戦。富士通はお客様であるJAXA様や多くのメーカーと一丸となり、ミッション成功に挑み続けている。

世の中への提供価値

Before
軌道決定精度の限界に苦労することもあった

「はやぶさ」における小惑星イトカワへの往復航路の正確な軌道計算に、富士通の技術は大きく貢献していた。
だが、イオンエンジンによる加減速中や地球スイングバイなどのクリティカルなイベントでは、軌道決定精度の限界に苦労する場面もあった。

After
日本の深宇宙探査機の軌道決定精度を世界レベルに

「はやぶさ2」では軌道決定アルゴリズムの最新化に取り組んだ。特に、最先端の観測技術を使っての軌道決定は国内では前例がなく、アメリカでの導入事例をもとにJAXA様が調査・研究し、この成果を富士通が軌道決定システムに実装し検証を行った。結果、従来の10倍以上の精度で軌道が決定できるようになり、高度化した宇宙探査ミッションの成功に貢献している。

ストーリー

宇宙開発に欠かせない、富士通が誇る「軌道力学」分野の技術力。

人類がアポロ11号で初めて月に着陸したのは1969年。富士通と宇宙とのつながりは、宇宙開発の黎明期であるその頃までさかのぼることができる。特に宇宙から送られてくるデータから人工衛星や宇宙探査機がどこを飛行しているのかを分析し、航路を決定する「軌道決定」の分野では世界トップクラスの技術力だ。

「はやぶさ2」は、2010年6月に地球への帰還を果たした小惑星探査機「はやぶさ」の後継機。JAXA様の科学探求の取り組みとして、小惑星の物質の収集と研究を進展させ、宇宙探査技術を発展させるため、小惑星リュウグウから太陽系がつくられたころの有機物や水が含まれていると考えられる地下のサンプルを掘り起こし、持ち帰ることをミッションにしている。それは生命の起源の解明につながる手がかりになるかもしれないものだ。

「はやぶさ2」の軌道決定システムや地上データ転送システムなどを担当する富士通には、「はやぶさ」よりも難易度が高いミッションをより確実に達成するために、小惑星に向かう経路や小惑星へ接近する際に、いままで以上に正確な軌道計算精度が求められることになった。

「はやぶさ2」の軌道決定精度の向上に挑む。

「はやぶさ2」の軌道決定システムの開発リーダーとして高精度化に挑戦した谷口正は、「NASAのJPLを必ず抜かしてやると思っていた」と当時を振り返る。JPL(ジェット推進研究所)は宇宙探査機の軌道計算技術では世界最先端。そこに比肩するためには、システムの根本的な精度を上げなければならない。そのためには軌道計算の根幹となる、座標、地球の動き、DDORという新しい宇宙探査機の位置計測技術に基づく観測モデルとこれに応じた電波の大気補正モデルの高度化などが必要だった。JAXA様はJPLと共同でDDOR計測を実現。谷口はこの成果をJAXA様指導のもと軌道決定システムに実装した。

DDOR(Delta Differential One-way Range)は、遠く離れた2局の地上アンテナで電波を同時受信し、信号の受信時刻差を計測して探査機の位置を計測する技術だ。非常に高い精度で探査機の位置を計測できるため、精密誘導が求められる惑星探査ミッションでは必須になりつつある技術。

谷口は打ち上げ後、地球スイングバイを行うために地球から比較的近い宇宙空間を飛行していた「はやぶさ2」で何度も検証を行った。「ドップラーデータに現れる0.1mm/secの変化を見ながら軌道決定を行い、精度を改善するために徹底的に追い込みました」と谷口は語る。

世界レベルの軌道決定精度を達成。

2014年12月に「はやぶさ2」は打ち上げられ、小惑星リュウグウを目指す旅が始まった。谷口はその2年前からプロジェクトに参加し、軌道決定システムの開発を行っている。DDORは「はやぶさ2」のイオンエンジン噴射中の軌道決定や、小惑星接近運用など、特に決定精度が出しづらい場面に利用され、従来を一桁上回る決定精度を出せることを証明した。谷口も仕事に自信はあったが、それを確信することができたのは打ち上げから1年後だったという。

「はやぶさ2」は現在も探査を順調に実施しているが、地球への帰還ミッションは谷口の腕の見せ所だ。「はやぶさ2」本体は地球をフライバイするために地球に接近し、ある程度接近したところでカプセルを分離して目標地点に着地させる。

「誘導は地球から数千万キロ離れている、3ヶ月前から開始します。最初は探査機がコントロール不能になっても地球にぶつからない軌道にし、軌道決定して速度を修正して、ということを繰り返して徐々に軌道を精密にしていき、最終的に決められた数十キロの範囲内にカプセルを着地させます」と谷口は語る。その軌道計算技術は、谷口が目標にしていたJPLやESA(欧州宇宙機関)に比肩する精度だ。

将来の宇宙探査ミッション成功に貢献する技術を。

本プロジェクトで谷口が挑戦した軌道決定システムの高精度化によって、地球から遠く離れた宇宙探査機の軌道をより正確に求めることが可能になった。この技術は今後も、月や火星の探査ミッションにおける周回軌道投入など、軌道決定精度の必要なクリティカルミッションに活躍していくはずだ。

谷口は、子どものころに見たアニメが宇宙への憧れの原点だと話す。宇宙を舞台にした破天荒な冒険を夢見て、宇宙科学者になりたいと考えていた。そしていま、谷口は宇宙開発の最前線にいる。「最近では役割に縛られずに技術やプロジェクトを提案しています。現場は自由度が高いので、誰もやらないことに手を挙げて、トライアンドエラーを繰り返しています。宇宙を舞台に科学技術の発展に貢献する機会に恵まれていると感じます」と谷口。

折しも世界は、月や火星の有人探査に向けて、月の周回軌道上にゲートウェイを建設する計画で盛り上がっている。日本でも「はやぶさ2」ミッションを発展させた火星の衛星探査ミッションなどが計画されている。

「はやぶさ2」で培った技術をさらに発展させ、将来の宇宙探査ミッションの成功を支える重要な役割を担うべく富士通は進化を続けていく。

Project member
S.Taniguchi

TCソリューション事業本部 科学システム ソリューション統括部
1999年入社